Skip to main content
JOURNAL

台所と食卓、産地を考えるということ

By 2022/07/168月 8th, 2022No Comments

好きな場所を作る

Homelandは、2020年の4月に初めて緊急事態宣言が出されるよりも前から、日本国内にてキッチンツールを開発するプロジェクトとして、スタートしました。全国各地、北から南まで、ものづくりの産地を訪れ、その土地の産品を先代や先先代から受け継いで守り続けている生産者さんの門を叩いて行きました。

これだけ世の中に溢れている「もの」を目の前に、このタイミングで新たにブランドを立ち上げ、キッチンツールを作ろうと思った理由は2つありました。一つ目は、1日に3度食事をする私たちは、「食べる」ことにとても多くの時間を費やします。その数時間が、美味しくて楽しい時間だったら、きっと1日の大半が楽しい時間になる。毎日過ごす場所だからこそ、キッチンで過ごす時間と食卓で過ごす時間を、好きな「もの」に囲まれて過ごせたら幸せだろうな、と考えました。

食卓やキッチンを気に入りのアイテムで彩ると、空間ごと好きになってくる

ものづくりの姿勢について

二つ目は、全国でものづくりをする生産者さんの存在です。山から木を切り出し川を利用して運び栄えた町に根ざす、木工場。山の水が綺麗な土地で、水をふんだんに使う刃物などの鋳物業や、ベビー服を作り続けてきたニットメーカー、湖の土を採取して土を練り、窯で焼き上げる陶園など、地域ごとにその土地の歴史を活かし栄えた産業を持ち、人びとの暮らしを支えてきた技術の数々があります。しかし平成に入った頃から、アジア諸国にその製造の勢いを奪われ、価格競争で太刀打ちできず、少しずつ産業が傾き始めました。技術そのものだけでなく、産地自体が消え始めたのです。

菱三陶園の工房にて 器を窯に入れて焼く際に支柱として使う「ツク」

対話をしていくこと

私たちは、希少な技術と知見、そこに隠れるストーリーを知りたいと思いました。そこで、出来るだけ、メイドインジャパンにこだわろうと決め、各地に赴き、徹底的に取材し、商品の開発を開始しました。生産者さんと対話を繰り返していくうちに、あることに気がついたのです。日本の技術者は「オーダーに応える」だけでなく、技術者ならではの視点を活かして「クリエイション(創造)」をしてきたということ。考えてみれば当然のことで、毎日ものづくりに向き合っているのです。使い心地、持ちやすさ、適切な重量、普遍的な形や色、リピーターの心理に基づいた価格設定、お客様の潜在的なニーズまで、幅広く頭に入っているしアイディアもある。クライアントからの一方的なオファでものづくりをするのではなく、既にある引き出しから、体験や教訓を持ち出し、あーでもない、こーでもないと話し合いを繰り返していくうちに、作り出されるもの。そんな自然発生的なものこそ、人びとから求められているものであるし、生産者さんも作りたい!心から思うものなのだ、と気がついたのです。

窯に入る前、乾かしている状態の皿

窯の中 白いレンガ造りで美しい

かつて琵琶湖下であった採掘場から土を運ぶ

生産者さんを訪ねると、どんな意識でものづくりをされているのか、空間や設備を見ればすぐに解ります。楽しみながら作られたものは、幸せそうな景色をしています。逆に、渋々作られたものは、所在なさそうに佇んでいます。スタッフ皆さんの会話も、空気感やセンスも、あっという間に解ります。円滑に行っている場合も、悩みや課題を抱えていることも見受けられます。そんな時、私たちは思うのです。そうこうなくっちゃ、ものづくりは面白くない!作りたいと思えるもの、使いたいと思えるものを作ろう。それがお客様に届いて、使い続けてくれるものになったら、こんなに良いことはありません。生産者さんの視点を聞いてみよう。そこにはきっとヒントがあるはず。口数の少ない彼ら、彼女たちとの対話を繰り返す日々が始まりました。